ようこそ「Tokyo Chitlin' Circuit」へ!


ファンクバンドFREEFUNKと音楽ライター池上尚志が共同で主催をするライブイベント「Tokyo Chitlin' Circuit」にようこそ!
Funk/Soul/Blues/Jazzなどをルーツミュージックに活躍するアーティストを広く紹介していきます。

2011年1月19日水曜日

井手麻理子さんインタビュー

 今回で2回目となるソウルやファンクイベント「Tokyo Chitlin Circuit」。
1回目のCHAKAさんに続いて、今回も実力派シンガー井手麻理子さんをスペシャル・ゲストとしてお迎えすることになりました。


井手さんといえば、90年代後半のR&B系女性シンガーが百花繚乱した中で、そのスモーキーな声で他のシンガーとは一線を画したソウルフルな歌を聴かせていた実力派。個人的にも、特に「太陽に抱かれて」のCool Editが好きで(リミックスを手がけたRebirth of Soulは、Paris Match結成前の杉山洋介さん)、アナログ盤で良く聴いていた、ひと際思い入れのあるアーティストです。

そんな井手さんに、プロフィール的なところからソウル・ミュージックへの思い入れまでお聞きしました。
(「」内は井手さんの発言)


15歳の時、姉の部屋から聞こえてきたミニー・リパートンの「Lovin' You」が音楽を始めるきっかけ。
 

今はいろんな解釈が出来るかと思いますけど、その当時はブラックミュージックなんて言葉も知らないくらいだったので、なんなんだこの音楽は・・・ってな感じで意味も分からず衝撃を受けて、体が反応するままに惹かれていきました」
 
ミニー・リパートンの「Lovin' You」は、ソウルやポップスといったジャンルの垣根を越えて広く長く愛されている名曲だ。今でも頻繁にラジオから聞こえてくるし、個人的にも中学生の頃、ラジオでこの曲を初めて聴いて、エアチェックしたテープを繰り返し聞いたので、井手さんが受けた衝撃を想像するのは容易い。この頃からソウル・ミュージックを聴き始めたという。

しかし、しっかりと音楽活動と呼べるものを始めたのは短大に進学してから。
 

「バンドで60年代、70年代のブラックミュージックを中心にカバーしてました。当時好きだったのはアリサ・フランクリン、マリーナ・ショウ、のような女性ソウルシンガー。ジャクソン・ファイヴやスライ&ザ・ファミリー・ストーンなども好きでした」
 

アリサの「Think」や「Natural Woman」、ジャクソン・ファイヴの「帰ってほしいの」など、今でも多くの人が歌う名曲から、(おそらくアイク&ティナ・ターナー版の)「Proud Mary」やエッタ・ジェイムスの「Tell Mama」など、相当にハードな歌唱を求められる曲、スパイク・リー監督の映画「Mo' Better Blues」でシンダ・ウィリアムスが歌った「Harlem Blues」(原曲は1920年に"ブルースの父”W.C.ハンディが書いた曲。UAなどもカヴァーしている)などを歌っていたという。「Natural Woman」や「Harlem Blues」は井手さんの声に合いそうで、音源があるならぜひ聴いてみたいものだ。

時は90年代半ば。日本の音楽シーンはミリオンセラーが頻発する、音楽バブルの絶頂といえる季節。小室哲哉氏の音楽がシーンを席巻し、女性ヴォーカルはひたすらハイトーンを目指した。そんな中でも井手さんは我が道を行っていたようで、「黒人のような声が出なくて(自らの声が)コンプレックスの塊だった」 というが、そんな井手さんに大きな影響を与えたのがラヴ・タンバリンズのEllieさんだったという。 「日本人でもここまで出来るのかと感動しました」
このミリオンセラーの時代の裏で大きなブームとなっていたのがいわゆる「渋谷系」。その中でもラヴ・タンバリンズは本格的にソウルフルな歌を聴かせるグループとして評判となっていた。実は僕自身もラヴ・タンバリンズの「Midnight Parade」をライヴでカヴァーしたことがあるので、これも非常に共感できる。

1997年、21歳のときAvexの「STARGATE AUDITION」で優勝。同年10月に「CRAWL」でAvexからデビューする。FM局やクラブシーンを中心に支持を拡げつつ、1999年の12月にリリースしたユーリズミックスのカヴァー「There must be an angel」が大ヒット。
しかし、デビューした頃、日本のシーンはまだソウルやR&Bを迎え入れる準備が始まったばかりだった。そんな中で、井手さんは自身の音楽を「ポップス感が強かったのでは」と評価するが、それはジャンルどうこうというよりも、いちミュージシャン/アーティストとして、どのように音楽をクリエイトするかということに向き合うことでもあった。
 

「う~ん、(R&B)ブームについては特に考えてなかったかもです。ただ、実際に黒人シンガーはいるわけだから、どうせ聴くなら本物を聴いた方が良いと言われるのが嫌で、「個性」って事に固執してた時期かもしれません」
 

その後、作品を重ねるにつれ、音楽スタイルがより幅広いポップなものに変わっていたのは、まさにそこに自らの音楽を見いだしたからだろう。
 

「ジャンルにこだわらなくなったのと同時に、1つのジャンルの音楽を追究してる人を尊敬するようになりました。そして、そこから広がるものが全ての音楽に繋がってる事を知り、逆にポップスの難しさを再認識しました。(ソウルやR&Bは)意識してと言うよりは、自然に入っちゃってる感じでしょうか」

現在はライヴを中心に活動を続けている井手さん。もちろん、現在でもソウル系の楽曲をカヴァーすることは多い。
 

「アコースティックの場合はメロディーの美しいもの、バンドサウンドの時は逆にビートの強いものだったり、その状況に合わせて曲を選んでいます。ソウル・ミュージックは、歴史的背景、民族的な個性、コンプレックス、思考・・・本当はとても複雑なはずなのに、音になった時にとてもシンプルでとても強く、そして真っ直ぐ心に届くところが魅力ですね。でも、(言葉では)色んなうんちく説明は出来るけど、結局ないものねだりな気もする。人間の奏でる音の素晴らしさを感じ、そしてそれを確実に伝えていきたいですね」

イベントでは数曲を歌ってくれる予定だが、おそらく普段見られないようなステージになることは確実だ。ぜひ、会場まで足を運んでいただき、その瞬間を見逃さないでほしいと思う。


TEXT:池上尚志

0 件のコメント:

コメントを投稿