ようこそ「Tokyo Chitlin' Circuit」へ!


ファンクバンドFREEFUNKと音楽ライター池上尚志が共同で主催をするライブイベント「Tokyo Chitlin' Circuit」にようこそ!
Funk/Soul/Blues/Jazzなどをルーツミュージックに活躍するアーティストを広く紹介していきます。

2011年6月9日木曜日

青山陽一さんインタビュー

 CHAKAさん、井手麻理子さんと女性シンガーを続けてゲストに迎えてお送りしてきた「Tokyo Chitlin Circuit」ですが、今回は変化球。青山陽一さんをゲスト に迎え、ファンキーな一夜をお送りします。

 青山さんといえば、80年代のグランドファーザーズ時代から洗練されたソングライティングやブルーアイド・ソウル的なヴォーカル、実力派のギタリストとプレイヤーとしての魅力と共に、音楽専門誌でマニアックな記事を書くほどの知識を持ち合わせた音楽マニアとしての顔を持つなど、多面的な魅力で知られる人。頭脳派のミュージシャンといってもいいだろう。スティーヴ・ウィンウッドのファンとしても知られる。

 今回のインタビューは、ライヴやニューアルバムの制作などで非常に忙しい時期に当たってしまったため、メール・インタビューという形で行われたのだが、非常に長~い回答メールをいただきました。これなら直接のインタビューに方が時間がかからなかったのでは(笑)。あえて端折る必要もないので、ほぼそのまんま引用させていただきました。
 では、「紳士録」的なノリでいってみましょう(と、出だしからすでにマニアック)。



 まずは、プロフィールから。
 青山さんは1963年生まれ。昭和でいえば38年。子供の頃は、まさに歌謡曲全盛期。そしてエレキブーム。

「いちばん古い音楽の記憶は「ブルーライト・ヨコハマ」(筆者註:1968年。ヒットは翌年)みたいな歌謡曲とか、幼稚園くらいの頃に巷に流れていた、いわゆるテケテケ・サウンド。60年代の後半ですね。「エレキの若大将」などのエレキブームがあって加山雄三が大好きでした。小学生ではテレビアニメや特撮ヒーローの主題歌とか歌謡曲とか、ソノシートやシングル盤を買ってもらったり、勉強すると称して買ってもらった学習用カセットレコーダーで、付属のマイクをテレビのスピーカにくっつけて歌番組を録音するのにハマったりもしました」

 このへんの感覚はもう少し下の世代である僕にもよく分かる。レコード・プレーヤーはきっと持ち運びのできるポータブル ・タイプのもの、または「ステレオ・セット」と呼ばれていた一体型の家具調のもので、ペラペラのソノシートもポピュラーなものだった。モノラルのラジカセなどをテレビの前に置いて録音するのも、よくやったものだ。
 それから10年もすると、音楽をめぐる環境は変わってくる。「ニューミュージック」と呼ばれるポップスが人気を獲得し、シングルヒット中心の歌謡曲とは違う新しい聴き方が広まってくる。

 「70年代も後半になると、ギターを弾きながら歌う人をテレビでよく見かけるようになるんです。そのうちだんだんテレビに出てこない音楽のシーンってものがあるんだってことに気づきはじめて、歌番組に出演拒否していた井上陽水とかにあこがれたりしました(笑)日本で「ニューミュージック」と呼ばれていたものに興味を持ったり、FMラジオを聴き始めて、ビートルズやカーペンターズ、オリビア・ニュートン・ジョンだとかの洋楽ポップスもなんとなく耳に入ってきて、積極的にそういうものを聴くようになりました」

 まさに、音楽少年の辿る道。歌謡曲的な「スタンダップ・シンガー」から、自分で曲を書いて演奏する「シンガー・ソング・ライター」へ。このルーツにはフォークがあり、それがニューミュージックへと繋がっていくわけだ。それらのアーティストたちの多くはテレビへの出演を拒否し、テレビの前の少年達にはこれがカッコいいものと映った。また、ラジオのFM放送はステレオ放送ならではの音質の良さ、音楽中心の番組編成ということもあってか、まだまだレコードを買えない若者たちは、ラジオのエアチェックなどを通して様々な音楽を知っていくのだ。オリビア・ニュートン・ジョンはその美貌もあってか、当時はすごい人気だったんですよね。杏里の「オリビア を聴きながら」(1978年)のオリビアとはこの人のこと。
 では、青山さんが自分で演奏するようになったきっかけは何だったのだろう。

「1976年に中学に入ったんですが、親の職場の同僚の人にガットギターを貸してもらったのが最初です。井上陽水のコード譜を買って、弾いているうちにハマりました。その後、中学3年のときにフォークグループみたいなのを組んで文化祭で初めて人前で演奏しました。井上陽水とかかぐや姫とか、アニメソングとか「竹田の子守歌」みたいなのまで雑多にやってましたね。オリジナル曲は、中2のときに音楽の授業で詞に曲をつけてみよう、という課題があって、けっこう褒められまして。それに味を占めて、中3の文化祭のときに初めて自分の作った曲を人前で演奏しました。
 高校に入ってからはオリジナル曲を中心に演奏するバンドを結成しましたが、ライブハウスとかに出ていたわけではなく、文化祭とか楽器店のホールのちょっとしたコンサートで演奏したくらいです。(ビートルズの)「While My Guitar Gently Weeps」や(エリック・クラプトンの)「I shot the sheriff」なども演奏していましたね。高校時代はエリック・クラプトンが神でした(笑)ブルースやR&Bに興味を持ったのもその頃です」

 ガットギターが最初というのも、フォークグループというのもうなずける。今のように、最初から「ロックだぜ」みたいな人はほとんどいなかったのではないだろうか。ここまでは同世代の諸氏とそれほど差はなかったのだろう。
 そして、青山さんに決定的な影響を与えたのがクラプトンだ。当時のアマチュア・ギタリスト事情に僕は詳しくないのだが、多くの高校生はジミー・ペイジやリッチー・ブラックモアなどのハードロックに走ったんじゃないかと想像する。それらに比べて「渋い」音楽をやっていたクラプトンにはまったというのは、ギタリストとしてだけでなく、総体としての青山さんの音楽観に通じるものもあるだろう。
 高校時代には既にライ・クーダー、ローウェル・ジョージ、エイモス・ギャレット、B.B.キング、Tボーン・ウォーカー、ジョン・ホール、バジー・フェイトンにはまっていたということで、渋いなぁと感心する前に、友達と趣味が合わなかっただろうなぁとか、余計な心配をしてしまう(笑)90年代以降では、ロス・ロボスのデヴィッド・イタルゴとデレク・トラックス。ビル・フリゼール、マーク・リボー、ジョン・スコフィールドなどが最高とのことで、どんどん変態度が増していくあたり、高校時代の趣味は真っ当だったんだなとも思ってしまうのが恐ろしい。
 現在の青山さんのギターワークは、コードワークやフレーズなどの多様性という点では先の90年代以降のギタリストの影響が強いように感じられるが、ソロになると楽曲のイメージに反して思いのほか弾きまくってみたり、トーンやニュアンスなどには明らかにクラプトンの匂いを感じる。やはりその影響は絶大だ。
 ギタリストとして非常に個性的なプレイヤーであるから、いろいろなこだわりがあるのかと思いきや、
「とくにこだわってることはないですし、そんなに技術的に秀でたギタリストでもありませんので、自分の歌を効果的にバックアップすることや、気持ちよい間合いで美しいメロディを弾くことを心がけたりするくらいです」
と至って謙虚なお答えが。このあたり、ミュージシャンとしてのスタンスが現れているようでもある。

 そして、それ以上に巨大な存在なのがスティーヴ・ウィンウッドだ。

 「歌がすごいのはもちろんですが、浮き沈みの激しい音楽シーンにおいてカリスマ性やゴシップを売りにするでもなく、テクニック指向でもなく、単に音楽に邁進するのみで評価を受け続けている希有な存在で、そこが自分が共感し憧れる点でもあります」

 欧米では40年を超えるキャリアを持ちながら現在も第一線で活躍するアーティストはたくさんいるが、たしかにウィンウッドのような存在はほとんどいない。しかも、各時代ごとに代表的な名盤を残しているなど、活動に大きなムラがないことは驚異的だ。そして、スティーヴ・ウィンウッドという存在を通して青山さんの音楽を聴いてみると、なるほどと思わされることが多い。
 
 さて、バンド活動についての話に入ろう。グランドファーザーズだ。

「とにかく、あまり人がやってないような、風変わりな曲をやろうとしていました。メンバーの指向もバラバラでしたが、バンドを始めた頃、全員が好きだったのがトーキング・ヘッズとXTCで、そのあたりをお手本にしてた覚えもあります」

 僕がグランドファーザーズを初めて聴いたのは、90年代に入ってからだったが、正直なところ、そのときはよく分からず、ちゃんと理解できるようになるにはたくさんの音楽を聴いて、耳を育てることが必要だった。難解というわけではなく切り口の問題だったと思うのだが、要するに、ストレートなロックともただのポップスとも違うところで鳴っていた音楽だったのだ。
 作曲面での影響を訊ねると、ビートルズ、トッド・ラングレン、ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディラン、カーティス・メイフィールド、バート・バカラック、ジミー・ウェッブと言ったビッグネームでありながら、非常に個性的な作曲家たちの名前があがってきた。そのどれもが表面的なとっつきやすさとは別にある裏面を知って初めて謎が解けるような曲を書く人たちだ。
 グランドファーザーズはムーンライダーズの弟バンドと言われることが多かったように思うが、たしかに何層にも重なったレイヤーを透かして見るような一筋縄ではいかない感じはよく似ていると思う。だが、メンバーからすると事情は違ったようだ。

「実はバンドを始めたころ、ムーンライダーズを熱心に聞いてた人は(メンバーの中には)誰もいなかったんですが(汗)ライダーズと高橋幸宏さん主催のテント・レーベルのオーディションに応募したのがきっかけで、その後メンバーの方との交流ができたんです鈴木慶一さんや博文さんのサポートでライダーズの曲を演奏する機会が増えて、みんなで認識を新たにしていた覚えがあります。
 個人的にはライダーズの皆さんと出会う前に、カセットブックで出た「マニア・マニエラ」と「ドント・トラスト・オーバー30」というアルバムは買って持っていまして、すごい歌詞だなあ~、とビックリしたりしてました。今にして思えばライダーズからの影響があるとすれば歌詞が最も大きいかもしれないですね」

 グランドファーザーズはヴォーカル/ギターの青山さんをはじめ、後にカーネーションに加入するベースの大田譲さんなど5人編成だったわけだが、曲を書き、バントのセンターを務め、ギターソロまで弾いていた青山さんは、ソロイストの集合体のようだったライダーズの多面的なありようが羨ましかったらしい。尤も、ライダーズのようなバンドの方が珍しいわけだが。それでも、ソロになってからとの違いを問うと、「自分がなんでも仕切らないといけなくなった」というのだから、まだバンドの方が仕事量は少なくて済んだのかもしれない。
 ちなみに、グランドファーザーズは2007年に再始動。ほかには自らのギターとオルガン、ドラムスによるトリオBM's、アコースティックでの弾き語りなどの活動が最近のメインとのこと。単身でのゲスト出演の多さも、活動スタンスの軽快さを物語る。
 



 「Tokyo Chitlin Circuit」はソウル/ファンク系のイベントであるから、ブラック・ミュージックについてもいろいろ質問してみました。

 まず、ブラック・ミュージックへの馴れ初めから。

「高校時代、ビートルズやエリック・クラプトン、ライ・クーダーなどを聴いていて、彼らが黒人音楽をルーツにしていることがわかって、カバーしている曲のオリジナルを調べたりするようになりました。あと、リトル・フィートが好きだったので、ニューオリンズR&Bには昔からすごく惹かれるものがありました。間を大事にした演奏方法はとても勉強になりましたね」

「カーティス・メイフィールドなどのシカゴ・ソウル、モータウンやスタックス、70年代のフィリー、サム・クックやレイ・チャールズ、アレサ・フランクリン、グラディス・ナイトなど、そもそも偉大なソウル音楽に嫌いなものなんてまったくない」とかなり幅広く聴かれているようだが、実は「Pファンクもかっこいいし好きだけど、フランク・ザッパとかと同じで、日本人には入り込みにくいところもあるな~と思ったりします」という意見も。今回はFREEFUNKとの共演も予定されているが、大丈夫か、FREEFUNK!?
 それにしても、「シンガーとしてのジョージ・クリントンはすごく好き」という意見はなかなか珍しいかも(笑)

 マルチな魅力を持つ青山さんだが、シンガーとしての青山さんが好きという人も多い。いわゆる黒人的な歌い方をするわけではないが、そのエッセンスは確実に滲み出ている。

 「自分が影響されたロック系ミュージシャンのほとんどがブラックミュージックを自分流に消化した人たちです。私も同じように、黒人音楽から得たものを消化した音楽をやってきたと思ってます。そんなわけで自分のやってる音楽はけっこうソウル寄りだっていう自覚がありまして(笑)
 パワフルな歌い方は真似できなかったけど、自分がファルセットを多用するようになったのもスタイリスティックスのラッセル・トンプキンズ、テンプテーションズのエディ・ケンドリックス、カーティス・メイフィールド、マーヴィン・ゲイ、アーロン・ネヴィルなんかの影響大ですね。ブルー・アイド・ソウルでは、ライチャス・ブラザース、ラスカルズ、ミッチ・ライダー、ソウル・サヴァイヴァーズとか、イギリス系はブルー・アイド・ソウルとはあまり言われないけど、スモール・フェイセズや初期のアベレージ・ホワイト・バンドなんかも大好きです。でも、やはり自分にとって特別なものとなると、スペンサー・デイヴィス・グループのスティーヴ・ウィンウッドになりますね。その種の究極だな~と思います」

 ちなみに、ムーポンズというソウルのカバーバンドもやっていて、ギター×2、ベース、ドラムという鍵盤のない編成、カーティス・メイフィールドの「LIVE」なんかの音像をめざしているとのこと。
 おすすめのソウル作品も列記してくれたので、それは最後に紹介するとして。今、いちばん気になるアーティストとして、ラファエル・サディークとその最新作「ストーン・ローリン」を挙げてくれました。アメリカのR&Bシーンでは、ここしばらく60年代のソウルに回帰する動きが続いていますが、その中でも積極的なのがラファエル・サディーク。ルックスまで60年代のテンプス風に整える徹底ぶりで、アルバムも2作連続でこの路線。その中に現代につながる新しい感覚も滑り込んでいて、ソウル好きなら目を逸らすわけにはいかない。


 

 さて、現在準備中だという5年ぶりとなるニューアルバム。ソロ名義で、ギター、ベース、ドラムス、キーボードのシンプルな4人編成でのバンドスタイルが中心となる予定だそうだ。

「ソウル、ブルース、ジャズからヒントを得た要素も沢山入っていますが、そうとは聞こえないようなところもあって、独自の音楽として楽しんでいただけると思います。とはいえまだ作業が始まったばかりで、どう転んでいくか自分でも楽しみなんですが。今年中にはなんとか出せるよう頑張りたいです」




「青山陽一ファンにぜひ聴いてほしいソウル/ファンク系の作品」を挙げていただきました。
(※アルバムのコメントは筆者)

■普通ですけど(笑)どうしてもはずせません。

Marvin Gaye「What's Going On」
言わずもがなの名盤。








Curtis Mayfield「Curtis/Live」
言わずもがなの名盤。








Sly and Family Stone「Fresh」
言わずもがなの名盤。











■挙げようと思えば、いくらでも。

Sam Cooke「Night Beat」
夜をテーマに曲を選んでいるためか、ブルージーなカラーが出たRCA時代の名盤。







Ray Charles「The Genius Sings The Blues」
これもブルージーな曲を集めた、アトランティック時代の名盤。「(Night Time Is)The Right Time」や「I Believe To My Soul」を収録。







Bobby Womack「Poet」
世界一汚い声でシャウトする男(褒め言葉)。70年代から80年代への転換期に、洗練されたサウンドの中にどうにもディープなものを覗かせた名盤。






Neville Brothers「Nevillization」
ライヴ盤。これは聴いたことがないのです。








Spinners「Mighty Love」
MotownからAtlanticへ移籍。リードシンガーもG.C.キャメロンからフィリップ・ウィンにチェンジ。トム・ベルのプロデュースによる代表作。







Temptations「Wish it Would Rain」
モノクロの牧歌的なジャケットが印象的な作品。これも持っておりません。







Shuggie Otis「Inspiration Information」
様々な角度から名盤と評される作品。「Strawberry Letter 23」のオリジナルはこれに収録。CDはオリジナル・ジャケットで再発してほしいなぁ。

0 件のコメント:

コメントを投稿